在りし日

在りし日


とある日の昼下がり

ほんの一時的に帰省した俺は縁側でお茶を飲んでいた

そこにアイツがやって来た

「お、珍しいやん、帰省しとったん?」

 ………直哉

「そう睨まんといてや、歳も近い従兄弟やねんから仲良くしようや」

…………お前と仲良く出来るわけねえだろ

「非道い事言うやん……そう言えばまだそのカッコしとるん?」

…………………………


「何でスカートなんか履いとるん?君男やん」

………………黙れ

「そういや君今何歳やっけ?お姉ちゃんにそっくりになったやん」

………………………!

数秒の沈黙が訪れる


俺には姉がいた

名前は禪院美琴、25代目当主の長女として生まれた

率直に言えば姉はとても弱かった

直毘人の爺さんが改良するまで投射はとても使い勝手が悪かったらしい

ただ姉は優しかった

それに芯のある人だった

不当な扱いを受け、罵られても自分に出来る精一杯の努力を出来る人だった

直毘人の爺さんが投射を改良してから家の中で投射の術式としての格が上がった。

姉には人望があった。今までの態度で手に入れた物だった

家の中でも当主候補程では無いが、多少の発言力を手に入れていた。

……そんな姉が邪魔と判断されるのはそう遅いものでは無かった

ある任務に向かった姉は、そのまま殉職したらしい

らしいと言うのは知らせだけで遺体が無かったからだ。

姉が居た証拠は殆どが無くなり、話されなくなった。

このままでは姉がいたという事実は無くなってしまうのでは無いか?

俺は幼心にそう察し始めた。

その頃からだ、俺が女物の服装をし始めたのは

余り気にはされなかった、雑魚がどんな服装でも気にならなかったのだろう

たまに数名の女中が俺を見て泣いていた事があった

俺を通して別の誰かを見ている眼だった

それを見た時俺は心底安心したのだ

姉は人の心に残って居たのだと

とは言え本当に大多数の奴らからすればどうでも良い事だったのだろう

気にかけたり掘り返してくるのは直毘人の爺さんとこの直哉位だ


……………………………………………

「そういや術式反転出来るようになったんやって?見してや見してや」

うるせえな……

「何やて〜?」

見せてやるよ、術式反転


俺は周囲にあった柱を呪力に変えて直哉目掛けて打ち出す


「あっぶないやん……」

避けられたか

「当てる気やったん??人の心とかないんか?」

当たり前だろ

「あ、ちょ待てや!」

喚く直哉を残して俺は洗面所へ向かう

鏡に映る俺の顔はアイツが言う通り姉さんに近付いてきている

アイツの言う通り、姉さんはもう居ない

俺はそれを認めたく無かった

俺が認めれば本当に姉は居なかった事になる

ふと愛しい後輩の顔が頭によぎる

あの子はこんな俺でも好きだと言ってくれるだろうか

………そろそろ前を向くべきなのだろう

……忘れないよ、姉さん

Report Page